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「未来環境デザイン企業」に向け、ビジネスモデルの変革を推進する
島田 和一
MIRARTHホールディングスの1年目を終えて
当社は2022年9月に創業50周年を迎え、同年10月から持株会社体制に移行して、商号を株式会社タカラレーベンから「MIRARTHホールディングス株式会社」に変更しました。新体制での初めての期となる2024年3月期は、2022年3月期から4カ年計画の中期経営計画の3期目でした。売上高1,851億円、営業利益154億円で増収増益となり、営業利益においては2024年3月期の期初計画も上回って過去最高益を記録し、数字としては良い着地となりました。また中期経営計画7本の柱である「コア事業のさらなる拡大」では、ベトナム、タイでのコンドミニアム事業、フィリピンでの新たな戸建分譲事業を推進するなど、いずれの柱も順調に進捗していると言って良いでしょう。
私が2014年4月に社長に就任して10年が経ちました。マンションデベロッパーからの変革を意識し、新築分譲マンョン事業に依存しすぎない事業ポートフォリオをつくるため、事業の多角化を積極的に進めてきました。迅速かつ柔軟な経営判断、さらなるガバナンスの強化が必要不可欠と捉え、2022年9月に創業50周年を迎えたことを機に、同年10月に持株会社体制に移行して商号変更をしました。
Mirai(未来)とEarth(地球)を組み合わせた新たな社名「MIRARTH」には不動産総合デベロッパーの枠を超え、「未来環境デザイン企業」へ進化していくという、私たちの決意が込められています。
10年前、新築分譲マンション事業の売上は全体売上の90%以上を占めていました。そこから積極的にマンション以外の事業を推進したことで、2024年3月期の新築分譲マンション事業の売上は、全体の約50%となっています。特に、再生可能エネルギーを活用したエネルギー事業、J-REITや私募ファンドなどの運用を行うアセットマネジメント事業を積極的に拡大してきました。
中期経営計画最終年度となる2025年3月期も増収増益を計画しており、次の新中期経営計画につながる良い流れができたと思っています。しかし不動産事業の事業領域がマンション以外にも広範にわたるため、売上高や営業利益が全体の9割近くを占めており、依然として大きい状況ですので、さらなる収益構造の変革が必要と考えています。ここから2030年3月期に向け、営業利益割合を、不動産事業50%、エネルギー事業30%、アセットマネジメント事業・その他を20%に、さらにEBITDAベースで不動産事業とエネルギー事業を同じ比率にするロードマップを示しています。
価値ある住宅供給を追求する
1972年、小さな工務店としてスタートした当社グループは、開発、企画、販売、管理の一貫体制によるスピード感、常識にとらわれない発想を強みに、2001年には株式上場を果たし、50年にわたり成長し続けてきました。中長期的に見れば、少子化、人口減少によって、メインである住宅供給市場の環境は厳しくなっていくでしょう。しかし不動産は当社の主力ビジネスであるので、今後も独立系デベロッパーとして、価値ある住宅供給を追求していかなければならないと考えています。
中長期的には、日本の知見を海外で、特に東南アジアなどの人口構造変化で経済成長が見込める地域で生かしていくことも大切です。すでに申し上げたように、ベトナムとタイにおいて現地企業との協業も含め、不動産事業に参画していますし、2024年1月には、フィリピンのマニラ郊外のベッドタウン・ラグナ州で、戸建分譲事業を開始しました。規模は総開発面積約6.5ha、総戸数657戸となっており、フィリピン経済の今後を支える若年層をターゲットとし、手の届きやすい価格で質の高い住宅を提供していきます。海外での住宅供給プロジェクトは3カ国目となり、今後も東南アジアをターゲットにプロジェクトを厳選しながら、数カ国に分散させて投資を継続していきます。
ほかにも、不動産事業でできることは多くあります。まず、新築分譲マンション事業が中心のフロービジネスから派生する、ストック・フィービジネスで安定収益を確保していきます。賃貸不動産から賃貸収入を得る不動産賃貸や、8万戸近くの受託管理物件から管理収入を積み上げる不動産管理を進めていきます。さらに、アセットマネジメント事業にも派生させるため、ファンドビジネスとしての収益物件の開発、既存の収益物件については、スクラップ・アンド・ビルドだけでなく、バリューアップにも注力していきます。
パーパスにふさわしい企業であるために
当社は、持株会社体制へ移行するタイミングで「OurPurpose(存在意義)」を策定し、「サステナブルな環境をデザインする力で、人と地球の未来を幸せにする。」を掲げました。これはタカラレーベンが掲げてきたVision「幸せを考える。幸せをつくる。」と、Mission「共に創造する」をベースにし、グループ全体の事業拡大を踏まえたものです。先ほど触れた「未来環境デザイン企業」に進化していくため、パーパスにふさわしい企業のあり方を模索していく必要があります。
その進化するフェーズのきっかけとなるのがエネルギー事業です。当初私は、この事業を長期的に拡大していこうとは考えていませんでした。しかし2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、多くの企業や自治体が脱炭素化への取り組みを強化しており、今後のさらなる市場拡大が見込まれるようになりました。当社の取り組みは社会性の高い事業であり、パーパスの実現に向けて、重要なセグメントに成長させていきます。
2024年2月には、カンボジアにおいてカシューナッツの殻を原料としたバイオマス燃料化事業に着手しました。カンボジア政府と強固なリレーションを築きながら、エネルギー事業における発電源の多様化と日本国内でのエネルギー供給源としての寄与、カンボジア国内の雇用創出、産業発展へ貢献し、サーキュラーエコノミーの実現を図っていきます。
パーパス経営実践の上で、その浸透と、事業領域との接続を明確化すべく、2030年3月期までに目指す姿として2023年10月に策定したのが、長期ビジョン「地域社会のタカラであれ。」です。従業員一人ひとりが取り組んでいる業務から、人と地球の未来を幸せにしていくために、地域特有の政策やニーズを理解し、向き合い、事業を通して、地域社会をどう変えていくのか、どう社会・地域に貢献していくのかを示した言葉です。
首都圏に集約して始まった不動産事業は、今や全国40以上の都道府県で展開しています。その軸は新築分譲マンション事業となりますが、それに留まらず、住宅、オフィス、物流倉庫といった収益不動産を開発して不動産ファンドなどに売却する流動化事業でも展開していきます。つまり当社が展開している地域の社会課題について、不動産事業やホテル事業など、さまざまな切り口でお役に立ちたいと考えています。


「地域社会のタカラであれ。」に込めた人材戦略
この長期ビジョンは、取締役会メンバーを中心に、何度も議論し、考え抜いてつくられたものです。何が大事かを考えた時、当社グループの多くの事業がBtoCである以上、普遍精神としてはお客さまが第一でしょう。そしてお客さまと同様に、従業員は大事な財産です。育てた人材が辞めることほど、会社にとって不利益なことはありません。離職者を減らし、従業員のエンゲージメント、ロイヤルティが高まる会社にすることが重要となります。従業員あっての会社ですし、従業員がわくわくしながら、Well-beingを保ちながら仕事をすることが会社、さらにお客さまの幸せにもつながります。「地域社会のタカラであれ。」には、会社というより、従業員こそが地域の宝になってほしいというメッセージを込めているのです。
また、働く環境も変わってきています。例えば2001年以降、JASDAQ、東京証券取引所第二部、第一部(現プライム)と上場していったフェーズ、2008年のリーマン・ショックの経験を経て成長していくフェーズなど、業績を上げていくために従業員にかかるエネルギーは変化しています。私が社長に就任した10年前から、売上高も従業員数も格段に増えている中、当時のようにがむしゃらに働いていた頃とは、人材戦略を変えなければなりません。
かつては社訓やビジョンがあっても、それを踏まえた従業員教育はできていなかったように思います。パーパスや長期ビジョンはまだできたばかりですが、目指す会社のあり方にしっかり紐づいた従業員教育をしていきます。こうした流れの中で発足したのが、MIRARTH INNOVATIONLABO(ミラース・イノベーションラボ/通称ミライラボ)です。非管理職・リーダー層を対象に行われた、階層別選抜研修参加者により発足したもので、当社を100年間存続させるには、「若手社員の育成」「部門を超えた横断的な関わりの促進」「従業員が働き続けたいと思う環境の構築」が必要であるという考えに基づいています。新卒入社の従業員が3年後に明確なゴールイメージとやりがいを持って働ける環境の整備、部門理解と横断的なコミュニケーション文化の醸成、年次有給休暇の取得促進を目指しています。
それまでは、社内でこのようなアイデアを現実化する意識は低かったように思います。若手の従業員が会社の未来を考え、自ら変革を起こそうと経営陣に提案を行う。従業員が「この会社で頑張ろう」と思えるような会社であるためには、経営側も意識を変えないといけません。もちろん、提案や意見がすべて採用されるわけではありませんが、風通しは良くなっていると感じています。
私が今後の課題と考えているのが、約1,400人の従業員という資産の中から、隠れた資質、能力を掘り起こし、グループの中で最大限活用することです。タカラレーベンはグループ会社に先駆けて、従業員一人ひとりのスキルや能力、異動、評価などのさまざまな情報をデータ化し、一元管理するタレントマネジメントシステムを導入していましたが、2023年度にはグループ全社に拡大させました。全従業員を把握した、戦略的な人事を進めていきます。
次期中期経営計画に向けて
2026年3月期からの新たな中期経営計画では、これまで述べてきたように、2030年3月期に向けたロードマップのもと、成長の軸をエネルギー事業に置きつつ、価値を高めた住宅の供給を目指すことになります。
投資家の皆さまからは、エネルギー事業のカシューナッツの殻を原料としたバイオマス燃料化事業についての説明を求められます。食用カシューナッツとして実が加工された後の殻は、その多くが捨てられていました。廃棄される殻をバイオマス発電の燃料として活用する点で、意義ある事業と考えています。さらに宮崎県では木質チップでのバイオマス発電所開発を進めています。これらは専門性が高い分野ですが、挑戦し続けていきます。
不動産事業においてはマンション事業を現状の2,200戸ほどの売上戸数を維持した上で、着実に供給、エリア展開をしていくことが重要と考えています。また、不動産事業の成長の軸は、流動化となります。現在、REIT向けに新築のレジデンス開発などを積極的に進めていますが、短期で回収可能な既存不動産の取得を進め、付加価値を高めて販売を行うバリューアップの比率を、2030年3月期には、利益割合で現在の5%から20%へ高めることを目指していく方針です。
またアセットマネジメント事業では、再エネ、REITのほかに、私募ファンドの運用受託も行っています。2030年3月期には、7,000億円までの積み上げを目指しています。
こうして次期中期経営計画では、時間を買うためのM&Aも含め、デベロップ型から、バリューアップ型に注力していきたいと考えています。

ステークホルダーの皆さまへ
当社はまだ、マンション専業デベロッパーのように見られています。それを否定するものではありませんが、今後、不動産総合デベロッパーであり、さらに「未来環境デザイン企業」と胸を張って言える実績をつくらなければなりません。
エネルギー事業だけが未来環境デザインではありません。不動産事業を通じて、地域を持続的に活性化させることもその一つでしょう。
地方創生という言葉があります。地方は人口が減少し、高齢化が進み、中心市街地が空洞化しています。当社は、こうした日本各地の現象に、本業の不動産事業で果敢にチャレンジし、向き合っており、その点ではすでに個々の従業員が「地域社会のタカラ」になっています。そこからさらに、会社として、従業員として地域の方々との関係性を構築し、地域の課題に向き合っていかなければなりません。地方というより、もっと狭い範囲の地域を元気にしていく「地域創生」のために、従業員みんなで「地域社会のタカラであれ。」を目指し、「未来環境デザイン企業」としての実績をつくっていきます。
ステークホルダーの皆さまとともに企業価値向上に努めてまいりますので、引き続きご支援のほどよろしくお願い申し上げます。